予備的併合の訴額
訴えの予備的併合とは「売買契約に基づいて車の代金支払を求めるが(主位的請求)、契約が無効であれば所有権に基づいて車の返還を求める(予備的請求)」のように、実体法上両立しない複数の請求について、主位的請求が認容されれば予備的請求の審判はしなくてよい、という形で訴えを併合提起することを言います。
これは「1月に貸した100万円の返済を求める、2月に貸した50万円の返済も求める」のような単純併合や、「賃貸したマンションを賃貸借契約に基づいて返還するよう求める、あるいは所有権に基づいて返還するよう求める(=返還されるなら理由はどちらでも良いので裁判所がやりやすい方を選択して下さい)」のような選択的併合とともに、訴えの客観的併合の一つです。
その場合の訴額(訴訟の目的の価額)については、予備的併合固有の規定はなく、客観的併合(一の訴えで数個の請求をする場合)全般に関する下記規定によります。
民事訴訟法9条1項 一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。
すなわち、予備的併合の場合であっても特別なことはなく、単純併合や選択的併合の場合と同様、利益の共通性を検討すれば良いことになります。冒頭の事例では、お金か現物かの違いはあるものの、主張する利益はその車で共通するので、9条1項但書により合算はされません。
2つの請求の価額が異なる事案では、多額な方が目的物の価額になります(主位的請求が100万円で予備的請求が70万円の場合は9条1項但書により共通部分70万円が主位的請求100万円に吸収され加算額ゼロで100万円、主位的請求が70万円で予備的請求が100万円の場合は後者のうち共通部分70万円が吸収され残る30万円が主位的請求70万円に加算されてやはり100万円、と考えても良いかもしれません)。
なお、主位的請求が認められないことが確定した時点で訴額の計算をやり直すのか?と思う人もいるようですが、訴えの予備的併合がなされた事件の訴訟進行は「主位的請求は認められませんね、ではこの後は予備的請求を審理します」のような2段階を踏むわけではなく、予備的請求は始めから審理対象となっている(予備的請求は主位的請求が判決で認容されることを解除条件として審理されている)ので、訴額は訴提起の段階で決まります。