賃料(地代・家賃)のスライド法の指標

継続地代を求める手法に、スライド法があります。これは、直近合意時点(最後の地代改定時)の地代から固定資産税・都市計画税等(=地主にとっての必要経費)を控除した額(純賃料)に変動率を乗じて得た額に、価格時点の必要諸経費等を加算して試算賃料を求めるものです。

スライド法の利用にあたっては、変動率を示す指標の適切な選択が大切です。

国土交通省の不動産鑑定評価基準は、変動率の指標につき、下記のように定めます。

変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとする。(平成26年版不動産鑑定評価基準35頁)

これは、単独で地代との正確な相関関係(一方が上がればもう一方も上がり一方が下がればもう一方も下がる・・という動きの関係)を示す指標は存在しないことから、各種指標の総合的勘案を求めたものであると考えられます。

これに関し、例えばスライド指標として消費者物価指数(総合)を採用した鑑定書を目にすることがあります。消費者物価指数(総合)を地代のスライド法の指標とするのは

ア 食料品、衣料品等々の価格が上昇すれば地代も上昇し、下落すれば地代も下落する。
イ その場合の地代の上昇率・下落率は、消費者物価指数の上昇率・下落率と一致する。

との考えによるものだと思います。

しかし例えば「北海道産バターが値上がりすると都内の地代が上昇する」とか「ユニクロが安価な衣料を発売すると都内の地代が下落する」といった関係(相関関係)を示すデータはなく、ましてそれら商品の価格上昇率・下降率が特定の土地における地代の上昇率・下降率とぴたりと一致するとのデータはありません(地代増額では1%単位での増加割合が問題になるので、スライド法に依拠するのであれば、スライド指標には1%単位での信頼性が必要です)。

企業物価指数及び企業向けサービス価格指数等についても同様です。「化学製品等の価格が上昇すると都内の地代が上昇する」(企業物価指数)とか「貨物運送料が上昇すると都内の地代が上昇する」(企業向けサービス価格指数)ことを示すデータはなく、それら商品又はサービスの価格上昇率が特定の土地における地代の上昇率とぴたりと一致するとのデータもありません。

このような地代と無関係なデータをいくら“総合考慮”しても、正しい結論にはなりません。
地代のスライド法の指標となるべき各種統計データは、本当に地代と連動するか(相関関係)、連動するとすればその理由は何か(因果関係)に関する十分な検討を経て採用されたものでなければなりません。

そして訴訟の側面からは、消費者物価指数、企業物価指数、又は企業向けサービス価格指数と地代とが正比例的に変動するという経験則は認め難いので、「上記指数が上がる時は地代も上がる」ことを前提に適正地代を認定すればその判決は経験則違反として上訴審で取消されるリスクをはらむことになると思います。