普通自転車でない自転車の交通規制

道路交通法(以下「道交法」)における「自転車」は、普通の自転車のほか、東南アジアで見られるような人力車に自転車を結合した自転車タクシー(ベロタクシー)や観光地で見られるようなタンデム自転車等をも含む広い概念です。

道交法2条1項 11の2号 自転車 ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車(レールにより運転する車を除く。)・・・をいう。

そして道交法は、上記のうち普通の自転車を「普通自転車」と定義します。

第63条の3 車体の大きさ及び構造が内閣府令で定める基準に適合する自転車で、他の車両を牽引していないもの(以下この節において「普通自転車」という。)は・・・

その基準は

道交法施行規則
(普通自転車の大きさ等)
第9条の2の2 法第63条の3の内閣府令で定める基準は、次の各号に掲げるとおりとする。
一 車体の大きさは、次に掲げる長さ及び幅を超えないこと。
 イ 長さ 百九十センチメートル
 ロ 幅 六十センチメートル
二 車体の構造は、次に掲げるものであること。
 イ 四輪以下の自転車であること。
 ロ 側車を付していないこと。
 ハ 一の運転者席以外の乗車装置(幼児用座席を除く。)を備えていないこと。
 ニ 制動装置が走行中容易に操作できる位置にあること。
 ホ 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。

外国製自転車は必ずしも日本の法令に準拠して製造されるわけではないので、国内で販売される輸入自転車の中には、例えば車幅(一般的にはハンドルの端から端まで)が60cmを超える製品も見受けられます。また国内の一流メーカーの製品にもおそらく性能上の必要からハンドルを幅広く設計したものがあります。それらの自転車は、普通の自転車というより、道交法上は自転車タクシーの仲間であるため、普通自転車とは異なる規制を受けます。

「自転車及び歩行者専用」とされている歩道の通行:NG

自転車タクシーが歩道上を走り回れば歩行者の安全が害されるため、道交法は、下記のとおり普通自転車のみに歩道通行を許しています。幅広の自転車は前述の通り法的には自転車タクシーと同じ規制を受けるので、上記標識がある道を通行することができません。また上記標識がない歩道でも、普通自転車であれば、交通の状況に照らして安全確保のためやむを得ない場合には歩道通行が許されますが、自転車タクシーや幅広の自転車は、そのような通行ができません。

(普通自転車の歩道通行)
第六十三条の四 普通自転車は、次に掲げるときは、第十七条第一項の規定(=車両(*)は・・・車道を通行しなければならない)にかかわらず、歩道を通行することができる。・・・
 一 道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができることとされているとき。
 二 当該普通自転車の運転者が、児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき。
 三 前二号に掲げるもののほか、車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき

(*)第2条八号 車両 自動車、原動機付自転車、軽車両・・をいう。
       ↓
 十一号 軽車両 次に掲げるもの・・をいう。 イ 自転車・・

(参考)警視庁ウェブサイト「普通自転車以外の自転車は歩道を通行することができません。自転車を運転する際に歩道を通行する必要がある場合は、必ず「普通自転車」を選びましょう。」
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/bicycle/menu/rule.html

普通自転車専用通行帯の通行:OK

普通自転車専用通行帯とは、車道の歩道寄りに一定の幅で設けた自転車用の通行帯です。青色等の路面塗装により他の通行帯と区分されていることが多いと思います。

道交法20条2項 車両は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により前項に規定する通行の区分と異なる通行の区分が指定されているときは、当該通行の区分に従い、当該車両通行帯を通行しなければならない。

ここで、普通自転車専用通行帯の標識による通行の区分の指定は、下記のとおりです(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令(以下「標識令」) 別表第1 規制標識 普通自転車専用通行帯(327の4の2))。
(1)普通自転車は、普通自転車専用通行帯を通行しなければならない。
(2)自動車は、それ以外の通行帯を通行しなければならない。
(3)普通自転車以外の軽車両は、どちらかを通行しなければならないということはない。

原文 表示する意味:交通法第二十条第二項の道路標識により、車両通行帯の設けられた道路において、普通自転車が通行しなければならない車両通行帯(以下この項において「普通自転車専用通行帯」という。)を指定し、かつ、軽車両以外の車両が通行しなければならない車両通行帯として普通自転車専用通行帯以外の車両通行帯を指定すること。

これにより、自転車タクシーや幅広の自転車は、どちらを通行しても良いことになります。普通自転車「専用」通行帯という名称は、普通自転車の通行義務を示しつつ自動車の通行を排除する趣旨であり、普通自転車以外の軽車両の通行を排除する趣旨ではないようです。

(参考)警視庁ウェブサイト 「普通自転車以外の軽車両も、普通自転車専用通行帯を通行することができます。」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/bicycle/menu/rule.html

なお、車道上の歩道寄りに点々と書かれた矢羽根マーク(自転車ナビマーク、自転車ナビライン)は、道交法所定の自転車が通行すべき部分と進行方向とを示しているだけであって道路標示ではなく、当該箇所は普通自転車専用通行帯ではありません。また普通自転車通行帯は自転車道(道交法2条1項3の3)(後述)ではありません(自転車道は、自転車の通行の用に供するため縁石線又は柵その他これに類する工作物によつて区画された車道の部分です(同条項))。

「一方通行(自転車を除く)」の逆走:NG

一方通行出口標識

一方通行出口の車両進入禁止標識の下に「自転車を除く」という補助標識板が付されている場合、そこから進入して逆走できるかという問題です。ここで標識令の別表第二 備考二(五) → 同一(六)は、補助標識板に「普通自転車」を表示する場合は「自転車」の略称を用いることができる、としています。したがって、一般論としては、補助標識板の「自転車」は、文字通り自転車であるかもしれないし、普通自転車の略称であるかもしれないのですが、どちらであるかは標識設置者の合理的意思解釈の問題になると思われます。ところがもし自転車タクシー等が一方通行を逆走すればその車幅からして交通の障害となることは明らかなので、上記標識設置者の意思は自転車タクシー等については逆走を許さない趣旨であると考えるほかありません。これにより一方通行標識に付された「自転車を除く」の補助標識板の自転車とは普通自転車であると解するほかなく、自転車タクシー等は上記補助標識が付いていても一方通行を逆走することはできず、幅広の自転車やタンデム自転車もこれと同じ規制を受けることになります。

(参考)島根県警ウェブサイト
「進入禁止や一方通行等の規制標識に「自転車を除く」という補助標識があっても、タンデム自転車は除かれません。」
https://www.pref.shimane.lg.jp/police/02_traffic_safety/bicycle/tandem_bicycle.data/tandemutirasiura.pdf
三重県警ウェブサイト
(一方通行に関する回答において)「少し分かりにくいのですが、標識に用いられる自転車という表記は、普通自転車のことを指し、タンデム自転車は該当しません。」
https://www.police.pref.mie.jp/information/R2_tanndemu.pdfr

三重県警が言うように「少し分かりにくい」のは、標識令が「補助標識の“自転車”は普通自転車に決まっている」と断定せず「自転車かもしれないし普通自転車かもしれない」としているので、上記のような場面に即した法的解釈によりどちらであるかを決めなければならないからですが、一般の自転車ユーザーとしては「幅広の自転車では“自転車を除く一方通行”を逆走できない」という結論だけ覚えておけば十分だと思います。

規制標識が特に設置されていない自転車道の通行:OK

自転車の通行の用に供するため縁石線又は柵等の工作物によつて区画されている(道交法2条1項3の3)だけで、特に規制標識のない道路は

道交法16条3項 二輪又は三輪の自転車・・・以外の車両は、自転車道を通行してはならない。

が適用されます。幅広の自転車も二輪の自転車なので、このような自転車道を通行できます。

(参考)警視庁ウェブサイト「普通自転車以外であっても、二輪又は三輪の自転車(側車付きのもの及び車両をけん引しているものを除く)は、自転車道を通行することができます。」
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/bicycle/menu/rule.html

「自転車専用」の規制標識が設置された道路(自転車道又は車道)の通行:NG

自転車道には“自転車専用”の標識が設置されたものがあり、また例えば東京の皇居周辺の内堀通りは、平日は交通量の多い車道ですが、日曜日には上記標識が適用され一部がサイクリングロードになります。

上記標識の意味は、標識令の別表第一の“自転車専用(325の2)”によれば「道交法第8条1項の道路標識により、普通自転車(道交法第63条の3に規定するものをいう。)以外の車両及び歩行者等の通行を禁止すること」ですので、これが設置されると、幅広の自転車は通行できなくなります。

この点「幅広の自転車は自転車道を通行できない」と言う人もいるようですが、少しだけ間違っています。自転車道には“自転車専用”の規制標識が設置されたものが多く、同標識による規制の効果として結果的に幅広の自転車が通行できなくなると言う方が正確です。同標識が設置されると幅広の自転車が通行できなくなるのは自転車道でも皇居内堀通りのような車道(日曜日にはその一部区間に上記標識が掲出されサイクリングロードになります)でも変わりません。