準備書面の表題(番号)

準備書面を順次何回も提出する場合には、その提出の順序に従い、原告第一準備書面、被告第二準備書面というように番号を付ける例になっています(司法研修所 5訂 民事弁護の手引き 昭和63年P118)。広島地裁のサイトの「準備書面の作成要領等」のページも「第1準備書面,第2準備書面というように,当該事件についてあなたが裁判所に提出した準備書面の番号を記載してください」としています。

準備書面の番号の付け方に特に決まりはありませんが、かつては上記のとおり、原告か被告かを問わず、第@準備書面とすることが多かったと思います。最高裁判所事務総局民事局監修 新しい民事訴訟の実務 平成9年第1版の例示においても「原告の第一準備書面」(P66)、「被告の第二準備書面」(P91)等となっています。

ところが最近の法科大学院のテキストには、原告準備書面の表題は「第@準備書面」とするものの、被告準備書面の表題は「準備書面(1)」のように括弧付き算用数字とする例があるそうです。たしかに講義をする上ではその方がどちらの準備書面であるかを短い言葉で指し示すことができて便利だと思います。そして弁護士さんの中には、その後の実務においても、これを範とする方がいらっしゃるようです。

そこで、ある判例データベースで、以下の単語を文中に含む判決の数をそれぞれ検索してみました。裁判所が判決文中で当事者の準備書面を引用する場合、その表題は格別の事情がない限り当事者が付した表題そのままとすることが普通であるため、過去の判決文中における各単語の出現頻度は、様々な事件の当事者がその単語を準備書面の表題とした頻度に近似すると考えられます。なお、準備書面において算用数字が用いられるようになったのは訴訟書類が縦書きからA4横書きへと変更された2001年1月1日以降であるため、検索対象はその期間に絞りました。その結果は

原告第一準備書面  23件  4%
原告第1準備書面 239件 41%
原告準備書面(1)208件 36%
原告準備書面1  109件 19%
       小計579件
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被告第一準備書面  15件  3%
被告第1準備書面 182件 33%
被告準備書面(1)256件 47%
被告準備書面1   94件 17%
       小計547件
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となりました。原告準備書面については第一と(1)がほぼ同率であるのと比較すると、被告準備書面については(1)が有意に多く、これは被告準備書面の表題を括弧付き算用数字とする人が一定数存在することを示唆しています。

ただ、私の感覚としては、公文書では括弧付き算用数字は下位階層に用いるもの、すなわち

  第1 自治体別人口
    1 東京都の人口
     (1)千代田区の人口
     (2)中央区の人口
     (3)港区の人口・・・

のように用いるものとされる(文化庁「公用文作成の考え方」P4ほか。また最高裁判決における数字の階層もこのようになっています)こととの関係上、例えば原告第1準備書面に対する反論を被告代理人として原告と対等な立場でおこなうにあたり、その書面を準備書面(1)と題することには、少々違和感があります。

もっとも、準備書面の表題が訴訟の勝敗に影響することは一切なく、裁判官は表題よりも下の行から始まる内容にしか興味はありませんので、依頼されている弁護士さんの準備書面の表題がどのようなものであろうと、それを気になさる必要はありません。