建物賃貸借契約が更新された後の保証人の責任
マンション等の賃貸借の保証人の責任は、当初の賃貸借契約期間の更新後も続くのか?という問題について、最高裁平成9年11月13日判決(平成6年(オ)1883号)は、以下のようにこれを原則として肯定しました。
建物の賃貸借は・・賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって・・保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば・・反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。
この問題については「そもそも賃貸借契約の更新とは、新規契約なのか、従前の契約期間の延長なのか」という議論を踏まえて、新規契約だから旧契約の保証は及ばないとか、いや単なる期間延長だから更新後の期間についても従前の契約の保証が及ぶ、といった議論があったようです(我妻栄 民法講義 債権各論 中巻一[633]項 参照)。しかし例えば東京の大学に合格して上京する学生が、東京在住の叔父さんに2年更新のアパートの保証人をお願いした場合、これを受けた叔父さんとしては「大学3年になったら別の保証人を探せ」と言うつもりは毛頭なく、更新後も面倒を見る意思であるのが通常だと思います。その場合、叔父さんとしては、法律学者が「更新とは新規契約である」と言うなら新規契約も保証する意思であり、法律学者が「更新とは期間延長である」と言うなら延長後も保証する意思であるわけで、更新の法的性質論はあまり意味がありません。
上記最高裁判決が、当事者の通常の合理的意思を理由に、原則として更新後も責任を負う旨を判示し、更新の法的性質論に立ち入らなかったのは、そのような見地によるものとして理解することができます。
なおその場合でも、上記最高裁判決は
もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。
とクギをさしていますので、不動産管理の実務としては、何かあったら早めに保証人と連絡を取り合うことが必要であり、「お金持ちの保証人が付いているから放っておいても大丈夫」などと考えるべきではありません。
また不動産管理の実務においては、上記最高裁判決にかかわらず、更新時に保証人から改めて署名・押印をもらうことが多いと思います。これは、保証人の中には上記判例を理解しない方(又は理解できないふりをする方)もいること、保証人が転居していた場合はイザという時に連絡に手間がかかること、さらには更新前に保証人が亡くなっていた場合は死亡時に被担保債務の元本が確定しており(民法465条の4 第3号)以後の賃料債務等は保証人の相続人が引き続き保証するわけではないこと、等を考えると、保証人の意思確認、現住所確認及び生存確認の意味において妥当な処理であると思います。