行政事件訴訟法36条
「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める行政訴訟をいいます(行政事件訴訟法3条4項)。
例えば、建築主事宛に建築確認を申請したのに対し、建築主事は、計画建築物は区長が指定した2項道路にかかっているから計画は違法であるとして「建築基準関係規定に適合しないことを認めた旨及びその理由を記載した通知書」を交付(建築基準法6条7項)した、しかしそのような2項道路指定の事実はない・・という場合、同指定処分の不存在確認を求める訴訟を検討することになります。
これについては、行政事件訴訟法36条の要件が必要となります。
行政事件訴訟法第三十六条
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。
ここで同条の「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」との要件は、「続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」のうち赤文字の者には不要とする説(二元説)もありますが、そのような読み方は条文の読点の位置から無理であるのみならず、同説を正面から認めた判例はないようです(「上告人は 続く処分により損害を受けるおそれのある者 であるから 当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの であるか否かにつき判断するまでもなく、行政事件訴訟法36条の要件は認められる」などとした判例はないようです)。となると実務的には、同説に依拠して緑文字部分を主張・立証しなかったために敗訴となれば弁護過誤になるので、あくまでも「続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」のいずれの場合でも緑文字の要件が必要とする一元説に依ることとし、常に緑文字部分も主張・立証することになると思います。
二元説が提唱されたのは、続く処分により損害を受けるおそれのある者による訴訟(予防訴訟)を広く認めようとする趣旨かと思いますが、判例は、二元説のような無理な条文の読み方は避けつつ、しかし緑文字部分を緩やかに解釈することで救済の間口を広げています。
最高裁判所第三小法廷昭和51年4月27日判決は、課税処分を受けたけれどまだその税を納税していない人が、課税処分の無効を争おうとする場合、おおもとである課税処分をターゲットに課税処分無効確認の訴えを提起することが許されるか、課税処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(租税債務不存在確認の訴え)によるべきかが問題となった事案で
右課税処分の無効確認を求める訴えを提起することができるものと解するのが、相当である
としましたが、最高裁調査官の解説によれば、上記は、二元説を採用したものか、一元説を採用しつつ「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」の「目的」の意味を緩やかに解釈したものであるのかは、必ずしも明らかではないとされていました(最高裁判例解説昭和51年民事篇P193)。 その後、最高裁第三小法廷平成4年9月22日判決は「目的を達することができない」の意義につき
当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味するものと解するのが相当である
として、これを緩やかに解釈すべきものとしました。
ところで冒頭のような建築確認の関係では、最高裁第一小法廷平成14年1月17日判決が、通路部分につき2項道路の一括指定の不存在確認を求めた訴訟に関し「行政事件訴訟法3条4項にいう処分の存否の確認を求める抗告訴訟であり、同法36条の要件を満たすものということができる。」としました。上記判例が36条の要件を満たすことをサラッと認めた理由については種々論じられていますが、建築行政の視点からは当然のように思います。ある土地がその一辺において公道等に接道し既に建築可能な状態にある時、それとは別の一辺が接する路地が幅員4mの二項道路に指定されると、土地利用が制限される(セットバック、建坪率・容積率の算定基礎となる敷地面積の減少、道路斜線による高さ制限、壁面線の制限等を受ける)ことになります。その場合、同2項道路に起因する全規制を抽出し、2項道路指定処分の不存在又は無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(「原告は被告に対し、1 セットバック義務のないことを確認する。2 二項道路部分の面積を建坪率及び容積率の算定にあたり敷地面積から控除する義務のないことを確認する。3 二項道路境界から立ち上がる道路斜線を越えた高さの建物を建築してはならない義務のないことを確認する。4 二項道路境界により定められる壁面線を越えて建物の壁面を設けてはならない義務のないことを確認する・・」のような訴え)により目的を達することは、理論的には可能ですが、あまりに迂遠であり、しかも規制項目の見落としがあればそれについて別訴提起が必要になることなどからすれば、同訴訟よりも2項道路指定処分の不存在確認を求める訴訟の方が “より直截的で適切な争訟形態である” ことは論を待たないからです。