不実過誤
民間の指定確認検査機関の関係者の中には、建築確認は形式的な書面審査が全てであると考えている方がいらっしゃいますが、その考え方が過ぎると、建築確認が後日に取り消される場合があります。
建築確認は、建築計画が建築基準法その他の建築基準関係規定に適合することにつき、建築主事又は指定確認検査機関の確認を受けるものです(建築基準法6条(建築主事による場合)、6条の2(指定確認検査機関による場合))。その確認審査は「確認審査等に関する指針」に従って行わなければならないとされ(法18条の3第1項、3項)、同指針は、施行規則1条の3第1項の表一等に掲げる「図書」の「明示すべき事項」に基づき、建築基準関係規定に適合するかどうかを審査するものとしています(第1の3項)。
例えば
施行規則1条の表の記載
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図書:配置図
明示すべき事項:敷地の接する道路の位置、幅員及び種類
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上記図からは例えば
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建築基準法第四十三条 建築物の敷地は、道路・・に二メートル以上接しなければならない。
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への適合性を審査することができます。あるいは
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図書:敷地面積求積図
明示すべき事項:敷地面積の求積に必要な敷地の各部分の寸法及び算式
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上記図からは
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第五十二条 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める数値以下でなければならない。
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の敷地面積の正しさを審査することができます。
他方、建築主事又は指定確認検査機関が、確認審査を行うに当たり、確認申請書(及び添付図書)の内容の真偽に関わる事実関係等につき調査する権限や調査すべき義務を定めた規定はありません。
以上からすると、建築確認は、確認申請書(及び添付図書)を対象に、建築計画の建築基準関係規定への適合性を審査するものであり、提出された書面の審査を超えて、独自に事実関係を調査することが当然に求められているとはいえず、確認申請に不実過誤があることがうかがわれるなどの特段の事情がない限り、確認申請書(及び添付図書)を審査すれば足りると考えられます(平成29年3月17日東京地裁、平成8年2月27日神戸地裁尼崎支部)。
例えば、建築審査会には、申請地の隣地所有者から「本件建築計画の敷地は自分の所有地に食い込んでいる(民法上の土地境界線が間違っている)」との理由で建築確認処分の取消しを求める審査請求がなされることもあります。しかし現実問題として、土地の境界争いは、裁判官でも相応の時間をかけて証拠を検討し証人尋問も実施した上でなければ結論に達しえない事項です。これに対し、自治体の建築主事や民間の指定確認検査機関の担当者の多くは、建築学科等の出身で建築には詳しいものの、民法の専門家ではありません。そのため(施行規則1条の3第1項の表一等に掲げる「図書」の「明示すべき事項」の中に民法上の土地境界(所有権の範囲)の記載はないが)提出された書面の審査を超えて、正しい土地境界について調査し判断せよと言われても、対応することはできません。その意味で、建築確認は、確認申請書(及び添付図書)を対象に、建築計画の建築基準関係規定への適合性を審査するものであり、提出された書面の審査を超えて独自に事実関係を調査することが当然に求められてはいない・・という上記裁判例の結論は、至当であると思います。
ただ注意すべきは、少なくとも上記裁判例では「不実過誤があることがうかがわれる(ウソや間違いがあることが読み取れる)などの特段の事情がない限り」とされている点です。逆に言うと、明らかにウソや間違いがある(しかし書類としては整っていて、例えば建坪率にも容積率にも高さ制限にも違反していない)建築確認申請がなされた場合(極端な例として、例えば「区立児童公園は自分の宅地である」との前提で区立児童公園を敷地に取り込んだ計画の建築確認を区の建築主事に対し申請した場合)に、建築主事があくまで形式的に書面上は建築基準関係規定の違反はないとして確認処分をすれば、当該処分は違法とされる余地があります。
最近も、東京地裁平成24年3月13日判決が、袋地の所有者が隣地の通路部分を隣地所有者の同意なく敷地の一部であるかのように記載して建築確認を申請した案件につき
ある土地が建築物の敷地であるというためには、建築計画において単に図面上敷地であるとされているだけでは足りず、当該建築物のために敷地として実質的に支配できるものでなければならないというべきである。・・そして・・敷地としての実質を有・・する・・か否かは、・・当該土地の状況等から客観的に判断すべきものであることは明らかである。
・・敷地とされた土地が・・敷地とはなり得ないことが客観的に認められる場合には・・建築主事が、建築基準法6条13項に基づいて建築基準関係規定に適合しない旨の通知をすることは、土地の利用権原等について審査権限を有しないことと矛盾するものではないばかりか、それが建築基準法の要請するところであるというべきである。
と判示しましたが、「申請地が敷地とはなり得ないことが客観的に認められる場合」とは,登記簿の調査や現地調査をしなくても、建築確認申請書(及び添付図書)からウソや間違いが読み取れる場合、つまり従前の裁判例が「不実過誤があることがうかがわれる場合」と表現してきたものの一例であると考えられます。
*上記判決につき、一部大手出版社の雑誌記事には「建築行政に携わる関係者の間では、今回の判決に戸惑いを隠さない人も多い」との記述も見られますが、従前の裁判例の原文をきちんと読んでいた人にとっては、意外な判決ではありません。