擁壁工事と土地価格
がけ近くにおける建築に関しては、建築基準関係規定による特別な規制に基づいて擁壁の設置等が求められる場合があることは、別項に記載のとおりですが、そのようながけ付きの土地の価格は、正常な土地の価格と比較すると、理論的には擁壁設置費用又はこれに代わる深基礎もしくは杭基礎の工事費用分だけ安くなります。
一般に、不動産鑑定で土地価格を査定するには、まず査定対象地の近隣に空想の土地を設定し(多くは、近隣の地価公示地点に理想的な形状の更地があると空想し)、その空想上の土地の価格を計算してから、査定対象の土地が上記土地と比べて優れている点や劣っている点(駅から少し遠い、形状が細長くて使いにくい等々)を個別補正として減価することにより、査定対象地の価格を導きます。その際、査定対象地はがけを含んでいるが,擁壁設置等により平坦地と変わらぬ間取りで住宅建築が可能で容積率を目一杯使うことができ住宅地としての効用に欠けるところはない、と判断されれば、個別補正の1項目として、空想の平坦地の価格から擁壁設置費用等を減価し査定対象地の価格を導くことが可能です。売主と買主との間でがけ地の販売価格を交渉する際も、同様に、擁壁設置費用等の想定額を平坦地価格から減額するなどして売買価格が妥当かを判断する(擁壁設置費用等や深基礎工事の費用を含む建築コスト+敷地価格=予算総額、を考えて、それを更地を購入した場合の予算総額と比較し、あえてがけ地を購入するかどうかを決める)はずです。
これに関し、自己所有地内の擁壁設置工事について「がけの安定は隣地にとっても利益なのだから隣地所有者に工費の一部負担を求めたい」と考える方もおられるかもしれませんが、経済の理屈としては、上記工事費は土地価格を決定するにあたり土地の正常価格から減額済みであり、がけ地購入者はその浮いたお金で後日に擁壁工事をすることが想定されているので、擁壁工事費の一部を隣地所有者に負担してもらうと、それはがけ地所有者の儲けになってしまうと思います。