連帯債務の主文と「各自」「連帯して」

連帯債務の支払を命じる判決の主文は「被告らは、【各自】、原告に対し、100万円を支払え」あるいは「被告らは、【連帯して】、原告に対し、100万円を支払え」のようになります。

ここで【各自】100万円と聞くと、一瞬、被告1人当たり100万円の支払義務があり原告は計200万円をもらえるように思えるかもしれませんが、連帯債務が100万円なので、被告ら(連帯債務者)2人で総額100万円です。なぜそのような一見紛らわしい書き方になるのかについては、法的三段論法と、訴訟物の意義とを踏まえれば、容易に理解することができます。

法的判断は、法律を大前提、認定した事実を小前提とし、小前提を大前提にあてはめて、当事者間の権利義務(=訴訟物)の有無を判定する作業です(最判昭和30年12月1日 昭和28年(オ)第457号参照)。そして判決主文には、権利義務=訴訟物に関する判断の結論が示されます(民事訴訟法114条参照)。

これを連帯債務に関する判断についていうと

【大前提】民法436条 ・・・数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し・・・全部・・・の履行を請求することができる。
【小前提(例)】被告Aと被告Bは、原告との間で、原告に対し連帯して100万円の支払義務を負担する契約を締結し、その履行期が到来した。
【結論】そうであれば
 原告は被告Aに対し100万円の支払を求める権利がある。
 原告は被告Bに対し100万円の支払を求める権利もある。
となります。

もしAとBから支払がなければ、原告は、AとBとを別々に訴えることができ、その場合の判決主文は
 Aに対する事件:被告は、原告に対し、100万円を支払え。
 Bに対する事件:被告は、原告に対し、100万円を支払え。
となります。
*この場合、例えばAの事件で「被告は原告に対し、訴外Bとの連帯債務の履行として、100万円を支払え」とはなりません。訴外当事者との関係は、小前提における事実認定の問題であって訴訟物とは区別され、主文には現れません。これは例えば消費貸借契約が認定されて100万円の支払が命じられる場合も不貞行為が認定されて慰謝料として100万円の支払が命じられる場合も過失による交通事故が認定されて損害賠償として100万円の支払が命じられる場合も、主文はすべて「被告は、原告に対し、100万円を支払え。」となるのに似ています。

*AとBを別々に訴えた場合、原告は被告Aに対する判決書と被告Bに対する判決書の計2通を受けますが、その2通を利用して計200万円分の強制執行をすることは許されません。連帯債務者Aから100万円満額を回収したら、連帯債務者Bの債務は当然消滅しますが、それは各口頭弁論終結時より後の未来の事実であって、各判決には反映されていません。それをいいことに、もし原告が計200万円分の強制執行をしようとしたら、上記の場合のBは、強制執行を担当する裁判所(執行裁判所)に請求異議の訴えを提起してそれを阻止することになります。

ところで原告は、AとBをまとめて訴えることもでき、それは上記2つの訴が併合されたものなので、判決主文は
 1 被告Aは、原告に対し、100万円を支払え。
 2 被告Bは、原告に対し、100万円を支払え。
という2項になるはずですが、連帯債務は債務の内容が共通なので、あたかも数学の因数分解のように共通因数(「原告に対し、100万円を支払え」)をくくり出し
 被告【ら】は、【各自】、「原告に対し、100万円を支払え」。
とまとめれば無駄がなく、これが連帯債務の支払を命じる主文になります。
*ちなみに上記主文から【各自】を抜くと民法427条の分割債務の原則が適用され、Aに請求できるのは50万円、Bに請求できるのも50万円、になってしまいます(最判昭和32年6月7日)。

ただ、冒頭のような誤読もありうるので
 被告らは、【連帯して】、原告に対し、100万円を支払え。
という書き方もなされます。この書き方は、厳密には、小前提における「契約で連帯債務を負担した」という事実の一部が主文にしゃしゃり出てきているようにも見えますが、あえてわかりやすさを優先したものだと思います。