「ものとする」
契約書で義務を定める場合は、義務の内容を端的に書くとわかりやすくなります。
甲は乙に対し、2025年12月末日までに、100万円を支払う。
と書けば、100万円の支払義務と支払期限とをしっかりと約束したことになります。このような場合について「支払うものとする」とする契約書も目にしますが「ものとする」の5文字は、実は、不要です。
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法令上は“義務ではない事柄”を示すことがある
法令用語としては、さまざまな場面で「ものとする」が使われます。一般的な制度や方針を示すような場合もその例です。
国民年金法18条3項 年金給付は、毎年二月、四月・・・及び十二月の六期に、それぞれの前月までの分を支払う。ただし、前支払期月に支払うべきであつた年金・・は、その支払期月でない月であつても、支払うものとする。
年金は偶数月に支給しなければならない(「支払う」)が、前の偶数月にもらい損ねた年金があるときは奇数月でも支払う取り扱いとする(「支払うものとする」)としています。前者は義務を定めていますが後者は義務というより一般的な制度や方針を示しています。
裁判所では「ものとする」を使わない
裁判所の作成する和解調書(訴訟上の和解の内容を無駄なく記載した書面)における給付条項は「和解金として100万円を支払う」「解決金として100万円を支払う」のような書き方になり「ものとする」は付けません。論理的に無駄のない書き方をすればそうなるというだけでなく(上記の国民年金法のように)他の条項で定められた支払い義務について改めて取り扱いを定めるような場合と区別する意味もあります。弁護士の中にも、契約書を作る時、義務を定める条項に「ものとする」は付けない方がクールだ、と考える人がいます。
しかしどちらでも問題は生じない
もっとも義務を合意する条項の語尾が「ものとする」であったとしても、それだけで法的に問題が生じることはまずありません。上記の例で言えば、当事者間で100万円を支払う真摯な合意が成立していたなら、その合意の証拠として作成した書類の条項の語尾が「する」であろうと「ものとする」であろうと、その証拠書類から推認される合意の事実及びその内容に変わりはないからです。借用証に「返済するものとする」と書いてあったとしても、特段の事情がない限り、「借りた金は返さなくて良い」と合意したものであると推認されることなどありません。
努力目標を定める場合
なお、法的義務ではない努力目標やいわゆる紳士協定を定める場合には「@@するものとする」でも良さそうですが、その場合も、法的義務か単なる努力目標かの争いを後日に生じさせない条項が良い条項であると考える人は、端的に「@@するよう努める」と書くことが多いと思います。