ビー玉が転がる床
建物の不具合に関し、床の上でビー玉が転がることを指摘される場合があります。不具合発見のきっかけとしてはビー玉も悪くないのですが、訴訟及びその前段階の交渉における建物の不具合(契約不適合・瑕疵)の根拠としては説得力がありません。どれほどの傾斜でビー玉が転がるかは、床面の材質並びに床面及びビー玉の仕上げ次第で(要するに転がり抵抗の大小で)異なるからです(大理石の平滑仕上げの床面に歪みのないビー玉を置けば、施工として問題のない程度のわずかな傾斜でも転がります)。
建物全体の傾斜や不同沈下の可能性を示したいのであれば、そしてとりあえず専門家の手を借りることなくその程度を簡易に示したいのであれば、ビー玉ではなく、下げ振り(糸の先に円錐形の重りをつるした測定具)を利用して壁や柱の傾きを測定するのも一法です(但し二人一組での作業となります)。下げ振りから2mほど糸を引き出し、一人がそれを天井付近の壁面で固定し、もう一人が床付近で壁面と重りの先端との距離を測ります。仮に上部における壁面と糸との距離が50mm、床付近における壁面と重り先端との距離が62mmであったとすれば、その壁面の傾斜は
(62mm-50mm)/2000mm=6/1000
となります。柱が壁面から出ている時は、90度違えた方向でもう一度測定し、例えば南向きの家であれば南北方向と東西方向の両傾斜をチェックします。建物全体でこれを繰り返すことで、全体的な傾向を把握することができます。
その結果の解釈については、以下が参考となります。
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住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準(平成十二年七月十九日 建設省告示第千六百五十三号)
第1 趣旨
この基準は・・指定住宅紛争処理機関による住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準として、不具合事象の発生と構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性との相関関係について定めるものとする。
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そして同基準第3の1(1)は、上記のように測定した結果につき、概要下記のように定めます。
*同基準に言う「壁又は柱の表面と、その面と垂直な鉛直面との交差する線(2m程度以上の長さのものに限る。)の鉛直線に対する角度・・・」とは、要するに「2mの下げ振りで測定した角度」です。
勾配 | 構造耐力上主要な部分に 契約不適合(瑕疵)がある可能性 |
---|---|
3/1000未満 | 低い |
3/1000以上6/1000未満 | 一定程度ある |
6/1000以上 | 高い |
但し、上記第1記載のとおり、これはあくまで相関関係を示すデータであり、例えば壁面に6/1000以上の勾配があるからというだけで構造耐力上主要な部分に契約不適合(瑕疵)がある事実が認定されるわけではありません(関西人には阪神ファンが多い(相関関係がある)からといって、関西人イコール阪神ファンではないのと同じです)。実際には、他のデータも照合しつつ総合的な判断をおこないます。
なお、同基準は、床面の傾斜(凹凸の少ない仕上げによる床の表面における2点(3m程度以上離れているものに限る)の間を結ぶ直線の水平面に対する角度)についても上記と同じ基準を示しますが、床面の3m離れた2点間の傾斜測定はレーザーレベル等の道具を必要とし、一般の方がとりあえず専門家の手を借りることなく簡易に測定したいという場合には向きません。
建物全体のより詳細な傾斜測定については別項もご参照下さい。