聞き逃してはならない裁判官の言葉
借地非訟手続きで裁判官の発言を聞き流すと、困った事態になることがあります。
借地人が借地上の建物を第三者に譲渡する場合は、借地権の移転につき地主の承諾を得る必要があります。というのも、建物は敷地の利用権がなければ使いようのない物だから、建物が譲渡された場合は(バラして資材として使いたい等の特別の事情のない限り)同時に借地権も譲渡されたと推定するのが相当ですが(最高裁昭和47年3月9日)、借地権の譲渡には地主の承諾が必要だからです(民法612条)
とは言っても、譲渡を承諾するか否かは地主の自由で、承諾を得られないこともあります。その場合、借地人は裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可を求めることができます(借地借家法19条)。これに対し地主は、裁判所が定める期間内に「第三者に”建物+借地権”が譲渡されるくらいなら、自分が買う」と申し立てることができます(同条3項)。
借地借家法第十九条
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合・・借地権設定者がその賃借権の譲渡・・を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。・・・3 第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡・・を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価・・を定めて、これを命ずることができる。・・・
これは、借地人と第三者との間の取引に地主が介入するものであるため「介入権」と呼ばれます。これに対し裁判所は、鑑定委員会の意見を聞いた上で”建物+借地権”の価格を定め、買い受けを命じることができます。その場合の主文は例えば
1 借地人は地主に対し、建物+賃借権を代金@@万円で譲渡せよ。
2 借地人は地主に対し、前項の代金と引換えに、建物について所有権の負担となる一切の登記の抹消登記手続をした上で所有権移転登記手続をし、かつ、同建物を引き渡せ。
3 地主は借地人に対し、前項の登記と引渡しを受けるのと引換えに、1項の代金を支払え。
のようになります。そして地主が代金を支払って建物を買い受けるとともに借地権を買い戻せば、自分の土地上に自分所有の家が建っている状態が実現します。
ここで注意すべきは、上記条文に「裁判所が定める期間内に・・申立てをしたときは」とあることです。介入権は予定された取引を覆すとともに借地非訟手続きの方向性を変えてしまうものなので、法的安定のため、その行使期間を制限したものと考えられます。そして上記期間の指定は、裁判官が審問室にて口頭でおこない、書記官がその旨を調書に記載する、という形でなされることが多いと思います。これを当事者や代理人が聞き流すと、介入権行使の機会を失ってしまいます。自分は期間指定を聞いていないと申し立てても、調書の記載は覆りません。介入権行使期間が指定された時は、行使するか否か、行使するとすれば想定される代金をすぐ用立てられるのか等々を直ちに検討する必要があります。