借地権の譲渡承諾料

東京都区部では,借地権の譲渡に際し,賃貸人に対し譲渡承諾料を支払うことが慣行化しています。

理論的根拠

一般に借地権に価格が成立するのは,借地権を譲り受けることにより,新規に賃貸借契約を締結する場合に比べて,権利金等の初期の支払いをすることなく,かつ(昔から続いている借地権であれば必ずしも土地価格の上昇に比例して地代増額がなされてきたわけではないので)割安の賃料で目的土地を使用収益することができるからであると考えられます。それゆえ借地権の売却代金とは,

新規賃貸借契約締結と比較した場合の借地権譲受人の利得=賃貸人の減収が経済的に評価され譲渡人の手元において現実化したもの

であると言うこともできます。そのため,当事者間の衡平の見地から,譲渡承諾料による利得の調整がなされることになるものと考えられます。

資本の活用という見地から言い換えると、一般に資本の所有者は、それにもとづく一定の利回りを期待すべき立場にありますが、特に資本のうち土地については、それが賃貸借に供されている間は、その所有者は通常期待すべき利回りを下回る収益しか上げることができません。これを賃借人の立場から見れば、借地権とは割安に資本を利用しうる権利であり、それゆえ借地権には取引価格が発生します。そして借地権の売買とは、譲渡人が、このような不均衡な経済関係にもとづく権利の価値を金銭化する行為です。そうであれば、当事者の公平の見地からは、譲渡人をして賃貸人に対し上記金銭の一部を交付せしめることが妥当であるということになります。

譲渡承諾料の計算

そしてその料率は,東京地裁においては借地権価格の10%が標準とされています。おそらく元々は上記「借地権譲受人の利得=賃貸人の減収」を理論的に検証した金額を公平の見地から賃貸人と借地権譲渡人との間に配分したところ借地権価格の10%前後になったのではないかと推察しますが,現在は,個別の理論的検証抜きで一律に10%が標準とされており,都内では上記を前提とした不動産取引がなされていてその取引安定をも考慮するとすれば,今後とも同割合が基本的に維持されるであろうと思います。

推定相続人の場合

但し,借地権の譲受人が譲渡人の推定相続人である場合(例:親の借地であったところに子が家を建てる場合)には,譲渡承諾料を減額するのが一般的扱いです。子が借地権を相続した後に家を建てようとすれば譲渡承諾料は不要であること,親から子へと借地権が承継されたとしても前記のような意味における賃貸人の減収が生じたとは評価し難い面があること,などを考慮した扱いであると思われます。