建物の瑕疵と業務上過失致死傷罪の時効

建築物の設計・施工上の瑕疵により人が死傷した場合,その建築物の設計者又は施工者は,業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われる可能性があります。ここで,設計・施工がかなり昔のことであったとしても,死傷の結果発生の時点で刑事事件の時効がすでに成立している,ということはありません。なぜなら,

同罪は,死傷の結果発生をもって犯罪完了となる犯罪であり,そのような犯罪については死傷の時から時効が進行を開始するとされているからです(最高裁昭和63年2月29日判決「「犯罪行為」とは、刑法各本条所定の結果をも含む趣旨と解するのが相当であるから、Aを被害者とする業務上過失致死罪の公訴時効は、当該犯罪の終了時である同人死亡の時点から進行を開始する」)。そのため,築後約21年が経過した集合住宅の手すりに不備があったため妊婦が落下し胎児が死亡した事案につき,約21年前に設計を担当した元建築士が書類送検されたという事件さえありました(その後に起訴猶予)。

*設計・施工に問題があったとしてもそれは刑法上の犯罪ではなく(建築基準法上の行政刑罰に該当することは別論です),犯罪でもないのに時効のカウントが始まるというのもおかしな話で,人が死傷して初めて刑法上の犯罪が成立しそれについて捜査が始まるのであるから時効もそこから進行する,ということかと思います。

したがって,設計・施工に問題があったことにお気付きになった場合には,昔の案件でも放置せず,今後の対応について法律の専門家に相談されることが望ましいと思います。