縮尺の歪み

設計図書には、縮尺が設定されます。例えば縮尺1/100の図面では、幅員4メートルの通路は、図面上に幅員4センチで表現されます。ただ、図面を印刷したりコピーしたりすると、図面の縮尺は歪みます。30センチ定規2本をコピー機の読み取りガラス面に縦横に置いてコピーし、出力された紙の上に元の定規を置いてみれば、縦方向にも横方向にも1~2ミリ程度の誤差が生じることが実感できると思います。このような歪みは、光学的な読み取りの段階やドラムへの転写の段階で生じるのかもしれませんし、紙が熱せられ定着ローラーで圧力をかけられることで生じるのかもしれません。

ところで、東京都では、共同住宅の居室の1つ以上は、窓先空地(窓下の避難用のスペース)に面していなければならないものとされています。そして、大規模な共同住宅では、窓先空地の幅員は4メートル以上が必要です(東京都建築安全条例19条1項2号ロ)。これに関し、平成26年度のある建築審査請求事件において、審査請求人が「本件の窓先空地の図面には寸法線で幅員4メートルの記載があるが、図面に物差しを当ててみたら4センチに僅かに足りないので、これは違法な設計である。」と主張しましたが、これに対する建築審査会の判断は、当然、概要下記のようなものとなりました。

そのような縮尺の歪み(図面の印刷又はコピーにおいて不可避である)があったからといって、上記箇所を寸法の表記に従って幅員4メートルに施工しなければならないことに変わりはないのであるから、本件計画建物が違法建築であるとの主張は失当である。

なお「竣工した窓先空地に現場で巻き尺を当てたら幅員が足りなかった」という場合は、設計図書上の幅員の記載がどのようであったとしても、竣工した建物は違法建築です。