借地更新料の性格と、借地更新料の「相場」

借地の更新料につき、ネット上には、借地権価格の5%が相場であるとか、いや更地価格の5%であるといった、土地価格又は借地権価格に対する一律の割合によるものとする見解も見受けられます。そのような言説にどれほど信頼しうる根拠があるのか(データを適切に収集しそれを適正に統計処理した結果であるか)という基本的な疑問はひとまず措くとして、全ての事案について一律の割合を適用しようとする上記見解には、理論的に無理があると思います。

*借地契約で更新料の支払義務及びその額が定められている場合にはそれによりますので、以下で相場というのは、主として、借地契約で更新料の支払義務が定められていない(=更新料の支払い義務は法的に認め難い)けれども借地人が任意にこれを支払おうとする場合の適正価格のことです。

最高裁昭和59年04月20日判決は、更新料の性格につき

当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものである

とした上で、原審の「本件更新料には(1)将来の賃料、(2)更新の異議権を放棄する対価、(3)契約違反問題の解決金、という3つの性格がある」との判断を維持しました。

*「具体的事実関係に即して判断されるもの」であるため、更新料の性格は上記3つに限定されません。

更新料にこのような多面性があるなら、そのような性格の異なる数値の平均値には意味がありません。例えば、ある更新料は将来の賃料として授受され(上記(1))、別の更新料は更新異議権放棄の対価として授受された場合(上記(2))、その金額を足して2で割った数値は、賃料の額と異議権の額との平均ですが、それは結局何の価格でもないからです。リンゴが1個100円、スイカが1個千円だった場合、それらの平均値550円は何の価格でもないのであって、平均値を根拠にリンゴは1個550円で販売すべきだとかスイカは1個550円で十分だとか言うのはおかしな話です。同様に、更新料を将来の賃料として授受する案件において更新料全体の平均値を参照すべきだとか、更新料を異議権放棄の対価として授受する案件において更新料全体の平均値を参照すべきだというのもおかしな話です。

また、例えば更新料を一時払い賃料として授受する場合、その額は適正賃料と現行賃料の差額と相関する(地主は「いつも適正な地代をもらっているから更新料は安くてもよい」とか、逆に「いつも割安な地代で我慢しているから更新料はまとまった額をもらおう」と考えがちである)のですが、上記差額は個別に検討すべき数値であって「いつも割高な地代をもらっている近隣の地主さん全員が安い更新料で済ませたのだから、いつも割安な地代しかもらっていない貴方も上記平均値で我慢すべきだ」と言うことはできません。

結局、最高裁の上記判示のとおり、賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量した上で更新料の性格を見極め、その性格に即して各案件における更新料の金額を算定する必要がある(例えば更新料を実質賃料として授受するのであれば、適正な一時払い賃料額を算定する必要がある)のであって、その結果算出される金額が更地価格や借地権価格の5%から乖離する事案は、意外と多いのではないかと思います。また、例えば更地価格の5%が適切な事案ももちろんあると思いますが、その場合もその根拠を示す必要があるだろうと思います。