著作権と所有権
NHKのある番組で、以前、概要以下の問答が放映されました。
「落書きの著作権」
お店の看板にイラストの落書きをされた。ところがその後、お店が大繁盛。これはイラストのおかげだと思い店に飾りネットに載せると評判に。それを見た友人から売って欲しいと言われた。勝手に売ることはできるか?
要するに「看板の所有権を処分することについて、著作権者は文句を言えるか?」という出題です。話題のバンクシー作品を思わせますが・・・
正解として示されたのは
(本件イラストが著作物であることを前提に)他人の店の看板に落書きをした段階で著作権を放棄したものと見ることができるので、著作権者の承諾なく売っても良い
でした。しかし・・・
そもそも著作権と物の所有権とは、別々の権利です。著作権=コンテンツとして利用する権利、所有権=物として利用・処分する権利、です。誰かがピカソの絵を所有していた場合、絵の所有権はその人に、著作権はピカソ(の遺族)にあります(実際には財団が管理していると思います)。絵の所有者が絵を友人に売る時、ピカソの遺族と連絡をとって売買の承諾をもらう必要はありません(が、絵を複製して販売すれば著作権侵害になります)。番組の設問のように「友人から個人的に申し入れを受けて絵を売る」場合、著作権者がそれを妨げることはできません。
*友人に個人的に売るのではなく初めてオークションに出すような場合は、作品を公衆に提供するかしないかをコントロールする権利が著作権者に認められる場合があります(著作権法26条の2(譲渡権):著作者は、その著作物・・をその原作品又は複製物・・の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。)。ちなみに「公衆」の意味は
東京地裁平成24年3月23日判決
「公衆」には「特定かつ多数の者」も含まれるが(同法2条5項)、特定少数の者に対する譲渡について譲渡権は及ばない。
以上をまとめると「友人から20万円で譲ってほしいと言われましたが、勝手に売ってもいいのでしょうか?」への回答は「著作権者は、上記譲渡行為を譲渡権にもとづいて制約することはできず、また著作権者は店の備品(看板)の所有者ではないから「自分の所有物を勝手に売るな」とも言えず、結局、著作権者に断りなく売っても良い。」になると思います。なお、譲り受けた友人がそれをオークションに出すという設例であれば、番組回答のように著作権が放棄されたか否かが問題になると思います。
所有権と著作権とを混同した例は、昔からあります。最高裁昭和59年1月20日判決は、中国唐代の書(もちろん著作権切れ)を所有する者が、それをコンテンツとして複製し出版した者を相手取って出版差し止めを求めた事件ですが、最高裁は、上告人は所有権者であって著作権者ではないから、コンテンツとしてこれを利用することを支配することはできないとして所有者の敗訴としました。
ちなみに、知的財産権に詳しい裁判官による共同執筆の下記図書では、冒頭2項を割いて、このような著作権と所有権の違いを説明しています。
Q&A 著作権の知識100問 清水 節(編著),岡本 岳(編著) 日本加除出版 ISBN:978-4-8178-4069-1