古い借地権と旧借地法
現行の借地借家法は,(1)借地権の存続期間・効力等,(2)建物の賃貸借契約の更新・効力等,(3)借地条件変更等の裁判手続,につき定めます(同法1条)。同法は,平成4年8月1日に施行されましたが,それ以前には、借地権の存続期間・効力等に関しては,借地法(以下「旧借地法」)の規定が適用されていました。ここで注意すべきは,借地借家法施行前からの借地権の存続期間・効力等に関しては,借地借家法施行後も旧借地法が適用される場面がある,ということです。これは,旧借地法と比べて借地借家法では借地権の存続期間・効力等が弱くなった点もあるため,既存の借地権者に不安を抱かせないようにしたものです。これについては,借地借家法制定にあたり国会でも繰り返し確認されたところです。例えば
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第121回国会 衆議院法務委員会 平成3年8月30日
○左藤国務大臣 この法案におきまして、新法の借地・借家関係の更新とかあるいは更新後の法律関係、こうしたものに関します規定を一切既存の、今までの借地・借家関係には適用しないということを法律自体で明らかにいたしております。そうしたことで、既存の借地・借家関係には新法になっても従前と何ら変わりのない扱いを受けるということにしておるわけであります。それを曲解してといいますか、相手方との交渉を有利に運ぶようなものがあるとするならば、これはまことに遺憾なことでありまして・・(以下略)
○中野委員
現在の契約には新法は適用されないということでありますが、しかしながらそのことは、端的にわかりやすく言いますと、先ほどから繰り返されておりますが、今の土地、今の家を借り続ける限りは、また親から子にそれが相続をされようとも、または又貸しもしくは譲渡されようとも現在の法律が適用される。これは念のためにちょっと聞いておきますが、そういうことですね。
○清水(湛)政府委員 この法律が通過いたしまして施行されるということになりました場合に、この法律の施行前にされた借地契約、借家契約についてはすべて従前の規定が適用される。これをこの借地・借家関係が相続されて相続人承継され、あるいは他に譲渡されて移転するというようなことがございましても、借地・借家関係は同一性を持って移ることになりますので、やはり旧法の規定に従って更新等が規律されることになる、こういうことになろうかと思います。
○塩崎委員 ・・大正十年の旧法によりますところの借地権契約、その効力、これは今度の新法によって全く影響を受けないような仕組みになっておりますね。・・新法が一つの理想とするならば・・旧法の部分についても次の更新の際にはそのような方向に持っていくような改正が考えられるのではないかと思うのですけれども、それを考えられずに、それはそれ、もう平行線で走っていくような形をとっておられるのは、これはどういう意味なんでしょうか。
○清水(湛)政府委員 お答え申し上げます。
今回の改正法は幾つかの点があるわけでございますけれども、一つの点は、借地権の存続期間に関する改正でございます。存続期間を原則三十年とし、更新後の期間は十年とする。これが現行法の普通の建物の場合ですと・・契約で実際上は二十年、あるいは更新後も二十年、こういうことになっておる。堅固の建物を目的とする場合でございますと三十年、あるいは更新後の期間も三十年、こういうことになっておるわけでございますが・・先生のお尋ねは、既存の借地・借家関係に適用すべきである、こういう意見はなかったかというお尋ねでございますが・・この点につきましては・・法制審議会に対して寄せられました各方面からの御意見にもいろいろなものがございました。特に存続期間の点につきましては・・既存の借地人が不利益を受けるというふうに感ずるということも十分考えられるのではないか、こういうようなことから、この存続期間の点につきましては・・既存の借地権にはもう一切適用しないことが望ましい、望ましいけれども、やはり一つの考え方として、新法施行後二回目の更新からは新法の規定による更新期間にする、こういうようなことも検討すべきであるというような答申をいただいたわけでございます。
しかしながら、法制審議会自身も、やはり別建ての方がいいという基本的な考え方が強くあったということもございまして、答申後の各界の御意見の中に、この存続期間については既存の借地関係には一切適用しないようにするのが、この借地関係というのは当該個人にとってみますと日常生活の基盤であるだけに、いたずらに不安を与えるという意味におきましても適当ではないということから、この法案におきましては存続期間についても一切適用しない、こういうことにいたしたわけでございます。
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そのため,借地借家法附則は
第二条 次に掲げる法律は、廃止する。
二 借地法(大正十年法律第四十九号)
としながら
第四条 この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、附則第二条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない。
第五条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による。→旧借地法2条
第六条 この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による。→旧借地法4条,5条,6条
第七条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の滅失後の建物の築造による借地権の期間の延長に関しては、なお、従前の例による。→旧借地法7条
2 第八条の規定(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)は、この法律の施行前に設定された借地権については、適用しない。
としました。
上記大臣や政府委員の答弁によれば,附則に言う「この法律の施行前に設定された借地権」には,借地借家法の施行前に設定され同法の施行後に更新された借地権を含むことになります。裁判例にも,戦前からの土地賃貸借契約が,種々の経緯を経て,借地借家法施行後の平成6年に契約更新された事案につき
本件賃貸借契約は、借地借家法が施行された平成4年8月1日より以前に締結されたものであるところ、借地借家法附則6条には「この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお、従前の例による。」と定められているから、本件賃貸借契約に関しては、借地法4条1項(注:借地権者の請求による更新,建物買取り請求)が適用される。
としたものがあります(平成25年5月21日東京地裁判決/平成23年(ワ)39930号)。
なお,上記附則4条本文により,現行の借地借家法の施行前に設定された借地権にも,現行の借地借家法の規定が適用される場面があります。例えば,地代増減額請求(借地借家法11条)等です(「この法律の施行前に設定された借地権に係る地代の増額に関しては、なお従前の例による。」という規定はありません)。